こんにちは。正直MATSURIの新人担当者のサリーです。サリーは生物のことは得意なのですが、環境負荷の評価や関連する活動についてはまだ素人です。
~前回のあらすじ~
学ぶとは、「マネをする」ところからということで、社内にある環境負荷に関する報告にあったGREETというソフトを触ってみることにしました。環境負荷の計算をするためのソフトは世界に様々ありますが、「燃料」用途の環境負荷計算ではGREETがよく使われている印象です。四苦八苦しつつ、関連するニュースを読みながらGREETソフトを眺めることができるようになりました。そんな中で温室効果ガスの排出量を計算する方法というのは複数あり、変化し続けているものであることを理解していきました。どんな方法を使ったかも併せて情報発信する温室効果ガスの情報について発信するのが正直MATSURIな姿勢だと考えたところです。
~あらすじ終わり~
ということでMATSURIの藻の製品をGREETソフトで分析するぞ!GREETソフトで計算をするにはまず計算の前提となる情報を整理する必要があります。藻の製品のゆりかごから墓場までにどんなステップがあるのか、そのステップで使うエネルギーや原料等のインプット、そのステップで出てくる産物や廃棄物等のアウトプットを整理していきます。このような製品のゆりかごから墓場まで考えて環境負荷を計算することをライフサイクルアセスメント(LCA :Life Cycle Assessment)[1] といいます。LCAの実施手順はISO14040で国際規格化されています。
藻の製品のライフサイクルに対するサリーの初期の認識はこうです。
-
藻を育てる。藻は縦型のフラットパネル型の藻類生産設備(PBR)で太陽光をいっぱい浴びて、どんどん育つ!育つのが早すぎて光合成に使う水中の二酸化炭素が足りなくなって育ちが悪くなるのを防ぐために二酸化炭素をブクブク(エアレーション)する。
-
藻ツリーの幹となる藻類バイオマスを収穫する。
- バイオマスからいろんな製品ができる!その時に電気や熱や他のいろんな原料も使って作る。
- 燃料として使われる場合はエネルギーを得る。その際に燃やすことで二酸化炭素が出るけど光合成によって還元した二酸化炭素由来の二酸化炭素なのでその分はカーボンニュートラル。
- 物として使う場合は、その製品をある程度の期間製品として使われた後、埋立したり焼却処分される。分解したり、焼却する時に二酸化炭素が出るけどその分はカーボンニュートラル。
- 食品として食べる場合は人間が口に入れるまでについて考える?
さて、これをどうやってGREETで扱えばよいのでしょう?
LCAの実施方法はISO14040で国際規格化されているのでそれに沿って考えましょう。LCAを行う際は「目的や調査範囲の設定」(ISO14040)を行います。MATSURIが藻類のLCAをする理由とはなんでしょうか?
理由は2つあります。
- 理由1「藻類製品の環境負荷をより低いものにするための活動をするために現状把握をし、改善効果の予想をしたい!」
- 理由2「藻類が環境に優しいということを定量的に示したい!」
1つずつ整理して考えてみましょう。
- 理由1「藻類製品の環境負荷をより低いものにするための活動をするために現状把握、改善効果の予想をしたい!」
藻を育てて収穫するのに水などの資源やポンプを動かすなどの電気エネルギーを使ったり、藻類バイオマスから製品を作るのに加工に様々な原料やエネルギーを使用します。原料調達から廃棄されるまでのどの工程がGHG排出が多いのか、エネルギー消費が多いのか、水の消費が多いのかを把握することができれば、改善すべき工程・方向性がわかります。例えば、育てるときのブクブク(エアレーション)を24時間から12時間に減らすことができるとするとどの程度のGHG削減効果が見込めるのかが数値化できます。どのような改善をするとどの程度の効果が見込めるのかが数値化できるので、やるべき改善の優先度を決めるのにとても役に立ちます。
- 理由2「藻類が環境に優しいということを定量的に示したい!」
MATSURIは今の石油基盤社会から藻類を基盤にする社会になることで持続可能な社会の実現をします。MATSURIが幅広い賛同を得るには、藻類が環境に優しいということを定量的に示す必要があると考えています。これを示すためにはいったいどのような計算をすればよいのでしょうか?
「藻類バイオマス1kgの生産に水〇〇kgと土地〇〇haとエネルギー〇〇MJを使い、バイオマスに〇〇kgの二酸化炭素が固定され、GHG排出量は〇〇kgでした。」ということが計算されたとします。その結果を見て「藻類は環境に優しい!」と思うでしょうか?シンプルに考えると、「別に今、藻類バイオマスが無くて困ってないし、土地とか水を使うなら環境に影響があるから藻類いらないよ」と思うのではないでしょうか?しかし、この考え方には罠があります。あらゆる既存品を代替する新しいものが真のポテンシャルを評価されることなしに「いらない」という考えに結び付けられてしまうのです。
なぜなら、何もないところから物は生まれないので何かを「作る」時には環境に対して何らかの負荷がかかるからです。この世のどんな環境に優しいといわれるものにも環境負荷はあるのです。そのことを考慮すると、どんな新しい技術であっても「この新しいものを世に出すとなんらかの環境負荷があるからいらない」ということになってしまいます。それでいいのでしょうか?これまでよりも環境に優しい、持続可能な社会を作るというのがやりたいことのはずです。ならば知りたいのは「今まで使っている物よりこちらの方が社会の持続可能性に役立つ」かどうかです。藻類の環境負荷単体ではなく、既存の物との比較が重要ということになります。今までの製品と新しい藻類製品を定量的に比較することで、藻類のほうがより環境に優しいということが見えてくるのです。
つまり、今の石油基盤社会の環境負荷と藻類を基盤にする社会の環境負荷を比較して評価をしたいのです。ここでとても難しい問題が発生します。比較をするときに「何当たりで」比較をすればよいのか?という問題です。1kgでそろえて、石油1kgの環境負荷と藻類バイオマス1kgの環境負荷を比較すればよいでしょうか?残念ながら、石油1kgでできることと藻類バイオマス1kgでできることが違うので比較できません。比較をするには「同等機能をもつ製品当たり」でそろえて比較するべきです。LCAを行うときに考える「目的の設定」[2]がこれに当たります。
藻類バイオマスからできる製品は藻ツリーの広がりでわかるように多様です。なので、いったん、燃料に絞って考えることにします。LCAを行うときに考える「目的の設定」がわかりやすいからです。燃料であれば「どのような状態(ガス・液体・固体、どのような処理を経ているか)のもの1MJを特定の場所で得る」を目的としてそれに必要なステップや原料、排出される温室効果ガスの量を考えるという比較的シンプルな目的にすることができます。
一方で、例えば服のLCAを考えようとすると、目的の設定もとても複雑です。「服を着る」を目的としていいのでしょうか?服の機能はたくさんあります。フォーマルな場面で着られるか、アイロンいらずの記憶形状か、冬に適切な暖かさを提供できるか、どの程度の動きやすさかetc.など、ただ着られればいいわけではなく、その服の機能・コンセプトも目的で設定をしていかないと、改善すべきポイントがわからなくなってしまう可能性があります。冬に風邪を引かないように服を用意しないといけないのに、原料削減のために暖かさに重要な裏地を「着られるからなくしていいよね?」と言ってしまうような分析は的外れに思われます。つまり、「目的の設定」が非常に重要かつ複雑なのでいったん製品として使う場合のLCAは後回しにします。ただ、作る責任を果たすうえで藻の製品がどのように使用され、廃棄されていくかを真剣に考えていく必要があります。製品を世に送り出す際にきちんと設計していくべきところだと認識しています。
ただ、シンプルに燃料用途で「1MJを特定の場所で得る」ということを想定して計算するというのは多様なものが同時に作られる藻類バイオマスの特徴・良さが見えなくなってしまうなという気持ちもあります。燃料だけ得られる物と、燃料になる物と同時に食糧も得られる藻類とを燃料部分だけを単純に比較するのは藻類基盤になることのインパクトを十分に評価できないと思うのです。このあたりを網羅的に評価できるようにしていくことが藻類のポテンシャルを可視化する鍵となる気がします。
今回は計算を行う前に国際規格ISO14040に沿ってLCAの目的について考えを整理しました。データ集めて計算するのがLCAと思っていましたが、石油基盤社会の環境負荷と藻類を基盤にする社会の環境負荷を比較できるように計算をするのは実は結構難しいなと思いました。「目的をどう設定するの?」「なに当たりで計算すればいいの?」と頭を抱えることになりました。いったんは比較的シンプルに燃料用途で「1MJを特定の場所で得る」ということを想定して計算を行っていこうと思います。
次回もお楽しみに!
[1]環境技術解説 ライフサイクルアセスメント(LCA)https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=57
[2]ISO14041(JIS Q14041):目的及び調査範囲の設定並びにインベントリ分析「LCAを実施する上で、「目的の設定」は最初に行うべきステップ」とされる
written by:サリー